小金沢健人インタビュー|ART iT 📄



「感情を運ぶ」映像キャラバン

取材・文:内田伸一
写真:永禮賢
雑誌ART iT (アートイット) 22号(2009年冬/春号)




Koganezawa Takehito
1974 年、東京生まれ。武蔵野美術大学造形学部映像学科卒業。ネオンサインの変化や水面の動きなど外界のシンプルな事象を鋭敏に捉え、独自の世界感とリズムを伴う映像作品を制作。近年はドローイングやインスタレーション、パフォーマンスなど表現形態を広げている。現在はベルリンを拠点に、世界各地での滞在制作も行う。


青空を横切り、画面の端に消えたかと思えばまた違う角度で現れる飛行機雲。はためく画用紙を背景に粘土をこね続けるふたつの手――。すべてが常に動いていて、一見シンプルに、しかし避けがたく関わり合う。横浜での大型個展『あれとこれのあいだ』では、作家一流の現世観が展開された。

untitled 2008

「例えば、地層のように町の歴史が一度に見て取れる光景にはあまり興味がない。トラックが通った後に落葉が舞い、歩いてきた人がそれを踏むとか……そういう動きや、世界が少し違って見える場所、それが“あれとこれのあいだ”ですかね」

ベルリンを拠点に、この2年間はギリシャ、ニューデリー、ロサンゼルス、サンパウロなど旅が続いた。旅先でも、純粋に色と形と動きがミニマルに切り取れる場所を探す。その点、新作「デリーで迷って」は新境地にも思える。手持ちカメラでインドの雑踏をさまよう映像だが、レンズの前に欧米人モデルの顔( 雑誌の切り抜き)をかざし、道行く人々の顔にこっそり重ね合わせる。街の混沌を飲み込みつつ、ひとつ作家の作為を加えた。

lost in Delhi 2007

「街の子供たちが寄ってきて定点撮影ができず、自分も動いてみたのがきっかけで生まれた作品です。結果から言えば、あえて余計なものを撮ってみたくなったんですね。切り抜きは裏から見ると何だかわからないから、写っている人々は何を撮られているか判然としない。そしてこの作品を観る人は、町の様子も、ふわふわ浮かぶ顔も見る。そんな風に、いわば中吊りな感じを出したくて」

独特の浮遊感は、流麗かつ謎めいたドローイング群にも通じる。加えて、全作品に息づくリズムも小金沢の魅力だ。会期中は、能楽やガムランと、映像とのコラボレーションも行われた。

「僕の作品は音楽が鳴っていませんが、もともと自分の中では、動いているものは音楽としても“ 見える”し、音をビジュアル的にも感じる。言い換えればテクスチャーですね。例えば歪んだエレキギターの音、ドローン音楽や電子音など、自分の好きな音楽も、作品の中に活きています」

圧巻は、19台の投影機で700㎡の大展示室全体に映し出される「速度の落書き」。首都高を車で走り、ビデオカメラを振り回したこの作品では、大衆の消費欲を喚起するネオン広告がその意味を取り去られ、膨大な「光の動き」へと還元される。

「撮影って、何かを“ 写す”行為をもって、別のものに“ 移す”作業ですよね。僕が写真ではなく映像をやる理由は、それをさらに“ 動かす” ことで、観る人の視線も動いていくから。そこに感情移入というより感情移送のような何かがあって、作品はそのための乗り物であればいいと思います」
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