アピチャッポン・ウィーラセタクン インタビュー|ART iT 📄

未来は過去からやってくる

文:内田伸一
ポートレート:永禮賢
撮影協力:MARUNOUCHI CAFE

ART iT (アートイット)
2008年1月号 [雑誌]




Apichatpong Weerasethakul
1970 年バンコク生まれ。ドキュメンタリーとフィクションとが交錯するような映像作品で知られる。『ブリースフリー・ユアーズ』(2002 年)と『トロピカル・マラディ』(04 年)は、いずれもカンヌ映画祭、東京フィルメックスの受賞作となった。『エゴフーガル:イスタンブール・ビエンナーレ』(01 年)はじめ参加国際展も多数。
http://www.kickthemachine.com/


アートの目的とは、「アートなんて必要ないんだ」と観衆に気付かせるような、人生そのものの豊かさを思い出させること——あなたはこの意見に賛成だろうか。

「それが誰の言葉か思い出せないけれど、確かにそうだと思った。生きていること自体がアートであり、それが映像として記録されれば作品だとも言える。それなら究極的には、僕の“ 記憶” にちゃんと残っている映像を映画にするのは必要なのか? と考えないこともないけど、自分の経済活動を支える上ではいろいろ必要だしね(笑)」

そんな彼の作品は常に、観客が何も考えずに「受け身」で感覚を操作される類いのスペクタクルとは一線を画している。ハリウッド式の喜怒哀楽表現とは無縁の(という意味で予測不能な表現者である)登場人物たちや、虚実の間をさまようイメージの数々。そこに何を見出すかは、観衆に委ねられている。

「自分の子供みたいな大切な作品を観てもらうのはうれしいし、光栄に思う。ただ、その知性をリスペクトするという意味において、観客とは一定の距離を置いていたい。映画を通して何を主張するかよりも、その映像から観客がどんなことを受け取るかに興味がある、とも言える。そして、僕自身が作者と1対1で向き合う観客でもあるんだ」

『SPACE FOR YOUR FUTURE』展(東京都現代美術館)では、タイの古いホテルに、無数のホコリ(霊魂?)が浮遊する短編『Emerald』を出展した。

Emerald 2007 Video, Dolby 5.1 10min 50sec (loop) | (Trailer版はこちら)

「これも“ 記憶” についての作品。21 年間営業していまは閉鎖され、取り壊される予定のホテルだけど、古風な装飾や空間の使い方に感銘を受けた。このホテルのポートレートを撮りたいと思ったんだ。さらに、よく一緒に作品をつくっている俳優3人に、夢や故郷での思い出を語ってもらった。彼らはそこに泊まったことはないけれど、そんな人々の記憶をこの建物の記憶に吹き込むことで、何か面白いものができないかと考えたんだ」

ところでこの作品、上述の展覧会タイトルとは一見矛盾する気もするけど? と尋ねると、物静かな作家はこう締めくくった。

「このホテルを初めてみたとき、宇宙船のようなイメージを思い描いたというのもある。人々が訪れてはそこで新たな記憶が生まれ、人々はまた去っていく……というのがね。でも何より、記憶や思い出は確かに過去についてのものだけど、決して死なずに、未来へと続くエネルギーとしてそこにたくさん浮かんでいる気がするんだ。だって、未来は過去なしにはあり得ないのだから」
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